原発災害とビタミンD

2013年02月15日

2013年2月15日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行より転載
相馬中央病院 整形外科 石井 武彰

相馬市で整形外科医として勤務を始めて間もなく一年が経過しようとしています。当地での診療を通じて、この地域でビタミンD不足が起きているのではないかと心配しています。

ビタミンDは骨代謝に必須のビタミンです。腸管からのカルシウム吸収をたすけるほか、腎臓からのカルシウム再吸収を促進するなど、血中のカルシウム濃度の維持に関わっています。そのため重篤なビタミンD欠乏では、小児ではくる病を、大人では骨軟化症を生じてしまいます。そこまでいかなくてもビタミンD不足の状態では骨粗鬆症となるリスクが高まっていると言えます。

一般的にビタミンDが多く含まれる食品として、脂肪にとんだ魚やキノコ類があげられます。私がビタミンD不足の可能性に気づいたのは、外来で骨粗鬆症の患者さんに食事の注意点について説明していたときでした。魚介類、キノコ類の摂取を勧めにくい思いをしたからです。

震災以前は、福島沖は優れた漁場で、地域の方々は新鮮な美味しい魚介類を多く食べていたそうです。しかし原発事故後は放射能汚染の問題で漁業が本格再開していません。新鮮な魚をいつも食べていた漁師さんからは「スーパーでお金を払って魚を食べる気がしない」との声もあり、魚介類の摂取が減っている可能性があります。津波・原発被害で打撃を受けた方も多く、なかなか簡単に魚を一杯食べましょうとは言いづらい思いがあります。

また内部被曝の調査が進む中で、キノコ類は特に放射能汚染への注意が必要な食品とわかってきました。地域の方へも情報が浸透してきており、たとえ検査済みであっても、これらの食材の摂取を控えている人がいても不思議ではありません。キノコ類には注意しましょうという一方で、キノコ類の摂取を推奨することにも難しさを感じています。

ビタミンDは、食事摂取以外に日光を浴びると皮膚で合成されます。実際、日照時間のへる冬期ではビタミンDが減少気味であり、また高緯度地域では紫外線量が少なく、人種によっては乳幼児にビタミンD欠乏によるくる病がしばしば発生するそうです。
日光暴露の減少によるビタミンD不足は、原発事故後屋内退避が勧奨されていた地域でも同様のことがいえます。現在でも外遊びが減った子供、外出が減った高齢者など日光暴露が減っているのではないでしょうか。食事からの摂取減少、そして日光暴露不足からビタミンD不足となっていないかと心配しています。

相馬中央病院で働く、骨代謝の専門家である加藤茂明教授と話をすると、震災後のストレス、食習慣の変化、活動量の減少など、骨代謝にとって明らかに問題であり、相馬に来るようになって被災地の現状を見た時から心配しているとのことでした。そして、地域での骨粗鬆症に対する啓発活動として学術講演会を企画したり、一般住民対象に小さな勉強会で話をしたりと行動を始められています。

ビタミンD不足は骨への働き以外にも筋力低下などの身体機能の衰えにも関係があり、その結果として転倒が増えて骨折しやすくなるとも言われています。仮設住宅検診で高齢者のバランス能力に低下がみられたことも気がかりです。一旦骨折などしてADL(日常生活動作)が低下してしまうと、なかなか元の状態に戻るのは難しい状況です。通所リハビリテーション、訪問リハビリテーションが順番待ちで利用できずADL低下している方もいます。やはり、骨折を予防していくことを考えて行かなければなりません。

ビタミンD不足は食生活の是正や毎日の日光浴、必要があればビタミンD製剤の服用で対応可能です。原発災害の特殊性がビタミンD不足の一因となっている可能性があります。骨折予防のためにビタミンDに対する啓発が必要です。
posted by shinto at 10:04 | Comment(0) | TrackBack(0) | サプリメント
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